―――雨が、降り続いている。




「キース、しっかりしたまえ!」

 上級生の下から這い出したブルーが慌ててコンクリの塊に手を当てる。目映い光と音を残して左足が軽くなった。
 粉々に砕かれたコンクリの破片を見てキースは感心する。

「………攻撃も得意とはな。貴様、自分は魔法を使えるとか何とか言っていたが―――」

「質問は後にしたまえ!!」

「キース、大丈夫ですか!?」

 疑問は知人と部下の叫びで遮られた。

 いちいち大袈裟な反応をする、と思いつつ自身の左足を見ればかなり血みどろで、なるほど確かに少しは慌てたくなるかもしれないと妙に納得した。
 不思議と痛みは遠いから怪我をした当人の反応は至って淡白なものとなる。
 傷ついていても動かそうと思えば動かせる。ヒトの身体は存外丈夫に出来ているらしい。

「………なんで」

 ぽつり、と。

 水面に広がる波紋のように少年の声が零れた。

 いまならばブルーもマツカも力を使っていない。自分を潰す絶好の機会であるはずなのに、何故か彼は身動きすらせずに呆然と佇んでいた。
 ひどく、ショックを受けたような面持ちで。

「なんでお前が、ブルーを………」

「―――それを、訊くのか」

 初めて、苛立ちを感じて。

 隠すことなくキースは舌打ちした。

 助け起こそうとしていたマツカの腕を振り払う。前方のブルーを片手で押し退けて、立ち上がることさえ叶わず砂浜に這いつくばった状態で前だけ見据えながら。

 何故、と。

 理由を問うのか、今更のように。

 今更のように―――『お前』が!

「………オレは、生徒会長だ」

 ひとこと、ひとこと、言い含めるかのように。

「コイツは、うちの生徒だ」

 内心の苛立ちを隠すことなく睨みつける。
 まったく、冷静に考えてみれば自分は終始一貫してこのぐらい怒っていて良かったのではあるまいか。何故に退こうなどと思えたのか不思議で仕方がない。

「上に立つ者が下の者を庇うのは当然のことだ。好悪の感情など関係ない。仮にも他者を導く立場にあるならば、上や周囲にどう言われようとも守ると決めたものは守り通すのが筋だ」

 権力も栄誉も知ったことか。
 所詮は下の不平不満に付き合い、上からは細かに管理しろと責められる損な役回りだとしても。
 見返りがなくとも、苦労ばかりでも、伝えた言葉ひとつが周囲に影響しかねない以上は当然負うべき責務であり、義務だ。

 いくたびの時が廻り廻ろうとも。

「オレは、それを」

 拳を握り締め、胸元に当てた。




「―――忘れていない」




 恐れも畏れもなしに相手を正面で捉えた。

 途端、少年は苦痛の色に頬を歪め、両腕で己が身体をきつく縛り付けた。

「………うそだ………」

 呟きは小さく。

 緩く、首を振りながら。

「うそだ。うそだうそだうそだうそだ………っ。なん、で、なんでお前がっ」

 少年の周りで蒼い炎が揺らめく。

 蜃気楼を介したかのような曖昧な稜線。

 片膝ついていたブルーが緊張を孕んだ表情で立ち上がった。未だ相手を睨みつけたままの、キースより更に一歩先に踏み出して。

 手を伸ばすよりも早く。




「―――なんでお前が、ブルーと似た想いを抱いてるんだ!!」




 直、後。




 光が爆発した。




 直線ではなく不安定に揺れながら四方へと飛び散る<力>。バラバラに襲い来る衝撃波をブルーが両の手で払い除ける。

「………ジョミーッ!」

「バースト!?」

 キースの肩を支えるマツカの声が震えた。

 少年を囲む光は不安定な円を描きながらいまにも弾け飛びそうに其処彼処で歪む。
 不規則に明滅する光、弾け飛んだ<力>の欠片が放電する、地に落ちて砂を巻き上げる、押し寄せる圧力でこちらの意識が途切れそうだ。
 視神経を焼く光に耐え切れず腕を掲げ、かろうじて向こうを透かし見るような。

 湧き上がる力が周辺を巻き込んで竜巻の如く天に向かう。

 しかして中心点に居るのは未だ成長しきらないひとりの少年だ。

 抑えようがない力に振り回されているのか唇を噛み締め瞳を閉じて思い出したようにかぶりを振る。踏みしめた足元は彼自身が発する波動に押されてか徐々にめり込んで行く。

 意味を成さない意味などないただ認めたくない。

 幾度目か分からない声が響いた。




『し、て―――どうしてどうしてどうしてどうして!!!』




 ふ、と。

 傍らを過ぎる一瞬の影に手を伸ばした。
 捕まるとは思っていなかったのか、相手はその瞳を僅かな驚きに染めて振り返る。

「行くのか」

 何をしに、とは、問わなかったけれど。
 すべてを理解している風情で相手は印象的な真紅の瞳を細めた。




「僕でなきゃ、駄目だ」




 静かで、けれども覆すことの出来ない強さで。

 穏やかな笑みに押されるように掴んでいた腕の力を緩める。僅かに動いた唇ではなく直接の声が脳裏に響いて、




『後始末は、頼んだよ』




 ―――掻き消えた。




 耳を掠めた風。

 激しい破裂音。

 少年のすぐ隣に『移動』したブルーが直に相手の腕を掴む。火花、ではなく、散るのはより刹那的な。
 掴んだ箇所から蒼い光が迸りふたつの影を地上に焼き付ける。
 脳裏に響く頭が割れそうな悲鳴。
 少年は瞳を閉じたまま駄々を捏ねるように首を左右に振る。
 腕を振り払おうとしてもブルーが引き下がるはずもなく、命の奔流の如く周囲を埋め尽くす光で海面までもが蒼く発光して見えた。

 軽く、互いの身体が宙に浮き上がり。

 背後のマツカが息を呑み、合図もなしにその場に張っ倒された。

 耳を劈く鳴き声を上げて光が空を切り裂く。
 雨を巻き込み風を振り切り天へ舞い上がる。ヒトの輪郭を微かに留めた一筋の光線と化して。
 風雨をもたらす黒雲へ一直線に突っ込んで。

 雲海を雷が駆け巡る。
 地上は暗く、天は目映く、空を高速で駆け巡る光の塊に雷雲が吹き払われてゆく。

 一際強い風が地上に伝わり。




 ―――姿を消した。




 轟音の主は露と消え、切り裂かれた雲の隙間から昼の光が途切れ途切れに入り込む。
 先刻まで痛いほどだった雨の勢いさえも弱まって、いまは微かに頬を叩く強さしかない。
 無言のまま背後の部下を振り向けば、ゆっくりと首を横に振られた。マツカの力では追跡できないほど遠くへ行ってしまったのだろう。

 あれは瞬間移動か物質移動か念動力かと細かに分類する気にもならない。

 いずれにせよ、自分には関わりようのない処で彼らは彼らだけの戦いに突入してしまった。




『―――僕でなきゃ、駄目だ』




 あの、ブルーの言葉が全てなのだろう。
 自分はきっかけのひとつではあっただろうが本質的には『部外者』なのだ。

 ぽたぽたと水を滴らせる前髪が邪魔で仕方が無い。
 今更のようにじくじくと痛み始めた左足首を身体に引き寄せて、膝を抱え込む。見上げた空が青さを取り戻しつつある様をぼんやりと眺め。

「マツカ」

「はい」

 何の気なしに問い掛けた。




「―――奴に殺されてやれば、罪を償ったことになると思うか?」




 ほんの少し。

 間をあけてから、淡々とした声でマツカが応えた。

「………無意味だと思います」

「そうか」

 確かに。

 ひとひとりの命をひとひとりの命で購えるのであればこれ程に楽な話はない。

 くだらないことを訊いた、すぐに忘れろと。

 天を仰ぎながらキースは珍しくも傍からもそれと分かる苦笑を頬に刻んだ。

 


GE/BP(5)


 


 眩暈がする。吐き気がする。

 叫ぶ。

 息が出来ない。苦しい。

 泣きたい。

 胸をかきむしる頭を抱え込む腕を振り払う足で蹴り飛ばす。思う様に動きたいのに正体不明の強い力で締め付けられて儘ならない。

 どう、して。

 どうして苦しまなければならないこんな思いをしなければならない息が出来ない嫌なことばかり認められないことばかり何ひとつ上手く行かない得られない報われない動けない頭が痛い思い通りにならない嫌だ嫌だ何故こうなってしまうんだ何ひとつ変えられないならもう自分など寡ほどの価値もないではないかいっそ何もかも、




 ―――なにもかもぜんぶ!!




『………ジョミーッッ!!』




「っっ!?」

 頭を殴りつけられたような衝撃に目を見開いた。

 途端、目と耳で捉える。

 物音ひとつしない静寂、何もない空間、遠目に浮かぶ僅かな恒星。

「―――」

 眩暈がしそうな暗闇に何の支えもなしに浮いている。
 本能的な恐怖を抱きそうになったが、その瞬間に視界に飛び込んできた光景に息を止める。




 ―――赤い。

 赤い、星。




 疾うに消え去ってしまったはずの星。

 あたたかな想いと強い後悔を同時に揺り起こす光景。

 遠く、崩れてしまった思い出の地。




『………ナスカ。美しい、紅の乙女』




「ブルー!?」

 間近で響いた声に周囲を見渡した。

 先刻までのことを思い出せ。自分は一体―――『何処』で『何』をしていた?

 焦燥が募る。記憶が何処か曖昧としている。合間合間に浮かぶは降り注ぐ雨、覚えのある顔、以前と同じ姿で以前と異なる言葉を口にする存在、苛立ち、悲しみ。

 それ以上に襲い来る恐怖。

 この手が、『彼』すらも傷つけようとした事実。

「………何処に居るんですか!」

 手が震える。迷子になった幼児のように。

 視界の隅を掠めた青い色をひたすらに追いかけて、ようやく、求める姿を見い出した。

 繊細な意匠が施された服装、身体を包む長衣、耳にかけた補聴器。




 ―――幾度も繰り返し夢に見た。

 <ソルジャー・ブルー>がそこに居た。




 視線があった途端に彼はやわらかな微笑を浮かべる。

『やれやれ………結局はこれなのかな。君の中における僕の印象は』

「印象?」

『此処は<現実>の世界ではない。分かるだろう?』

 それ、は。

 ―――流石に分かる。

 かつてはともかく、いまの自分がこんな風に宇宙に居て無事で済むはずがない。真空の世界で防御壁を展開するほどの力はないのだ。落ち着いて己の格好を検めれば緋色のマントと言い両手を覆う白い長手袋と言い、これもまたかつての姿そのもので。

 ふたり揃って何処とも知れぬ空間に浮かんでいる不思議を思いながらも、かつて、自分たちは此処で別れたのだと苦しくなる。

 ジョミーの心情を察したのかブルーの笑みが深くなった。

『此処は<現実>ではない。だが、君の<現実>は確かに此処にある』

「え………?」

『君がこの星を願うから、この星を愛しく想うから、僕たちは此処へ導かれた』

 自分の未練があまりに強かったために彼まで引きずり込んでしまったのかと、未だ一部に霞がかかった思考の端で迷惑をかけてしまったことだけを悔いる。

 ふわり、と遠ざかりそうになるブルーの姿を追い掛けて、眼下に赤い星を望む。

『紅の乙女。フィシスが名付け、君が希望を抱いた星。………僕も、一度でいいから、降りてみたかったな。君たちが慈しみ、育て上げた大地に』

 懐かしそうに目を細めるブルーの姿は何処か輪郭がぼやけている。

 此処が現実の空間でないのなら、此処に存在している自分たちもまた現実ではないのだろう。深層心理に潜む過去の記憶を頼りに再現した儚い夢のような。

 遥かな時間を隔てようと、遥かな空間を隔てようと、こんなにも鮮明に思い描ける。
 それは、

『君がこの星をこころから愛していたことの証だよ』

 ブルーは微笑む。
 少しだけ哀しそうに眉根を寄せて。




『だから、この星を傷つけた者たちを恨む』




「………」

 咄嗟に答えが返せず、黙り込んだ。
 困り果てた表情を浮かべていたのか怯えた気配を見せたのかは分からないけれど、応じない相手を咎めるでもなく彼は淡々と言葉を続けた。

『誤解しないでほしい。僕は、憎むこと自体が間違っているとは思わないんだ』

「でも」

『誰かのために怒ること、何かのために憎むこと、傷つけた相手を恨むこと。いずれも愛情の裏返しだ。生き物が抱く当然の感情だよ』

 だから、少し。

 羨ましくもあったんだと彼の思念が零す。

『怒ったり憎んだりするにも力が必要だ。僕は、―――そんな、激しい感情を抱えたまま生きていけるほど強くはなかったから』

 ただ受け入れて、ただ踏み止まって。
 上に立つべき者としては相応しい態度だったかもしれないが、<ヒト>として相応しかったかと問われれば疑問が生じてくるのだと。

 でも、それはあなたの優しさじゃないかと告げるより先に彼はこちらを振り向いて、もう一度やわらかく微笑んだ。




『だからこそ僕は君の反応を愛しく思うんだよ、ジョミー』




 怒ることも恨むことも憎むことも、前へ進む者はそれすらも糧とする。

 けれど。

 けれどね、と。

『君の想いが何に由来するものであれ、何のためのものであれ、それが誰かを傷つけるならばその咎を負いたまえ。ヒトを傷つけるとは―――殺すとは、そういうことだ』

 君とてその手を血に染めたのだからと。

 未だ思い出しきれない記憶を彼はなぞってみせる。

 自身の過去は途切れ途切れでも、託された『彼』の記憶ならいまでも思い描くことが出来る。
 アルタミラからの脱出、アルテメシアへの潜伏、仲間の救出、彼の望みとは裏腹に常に彼の周囲に争いは耐えなかった。血は流れた。
 弱音を吐くことも、恨みや憎しみに囚われることも許されなかった。
 彼自身が許さなかった。

 こころが悲鳴を上げ感情が擦り切れようとも、『導く者』が闇に堕ちたが最後、付き従う者たちにまで累は及ぶのだから。

 ブルーは謳うように言葉を紡ぐ。

『―――マーサ・ビクトリア。18歳。辺境の惑星に送られたことが不満だった。自分を手酷くふった彼女にいつか復讐したいと考えていた。レイラ・クリストファー。25歳。養父母として来週からふたり目の子供を預かる予定で、この任務が終わったら休暇を取って家族サービスをしようと考えていた。ルイス・クロー。12歳。学園始まって以来の秀才。来週に控えた学会で研究結果を発表するはずだった。将来の夢は、そう、パイロットだ』

「………?」

 語られる名前に思い当たる節はない。年齢も立場もバラバラで、ブルーが何を伝えようとしているのかと戸惑う。
 更に幾つかの名前と簡単な履歴を諳んじて、他にも色々覚えているよと苦笑してから。

 告げる。




『全部、僕が殺した人間の名前だ』




 息、が。

 止まるかと思った。

「………覚えて、る、んですか」

『断末魔と共に届けられた想いだから』

 彼は笑みさえ浮かべているけれど、そんな。

 ―――そんなものを抱えて、誰にも見せないで、気付かせないで。

 戦い続けてきたのか。

 ずっと。

『………もしも僕が仲間の命を理由に他者を害しようとするならば、彼らを殺した僕も同様に罰されるべきだろう。僕がかつて殺めた誰かが僕らと同様に転生している可能性とて否定しきれない。そうして甦った誰かが、あの時の恨みとばかりに僕に殺意を抱くなら、僕が殺した大切な誰かのために復讐すると言うのなら、頭から拒絶することは出来ないと思うのだよ』

 むざむざ殺されてやるつもりもないけどね? と、そこばかりは少しの笑みを含めて。

 ―――だから、せめて。

 叶う限りは覚えている。

 自らの命は他者の命を犠牲にして紡がれたものと知っているから。

 その手を血に染める覚悟を持つならば、罪も受け入れることが最低限の礼儀になるのだと。『君』もそうだったはずだと自信あり気に頷かれた。

『他者の命を背負えば背負うほど自分のものであるはずの命は自分だけのものではなくなっていく。縛られて動けなくなっていく。理由が殺めたことに由来するのであれ、導く立場に置かれたことに起因するのであれ、責任という一点においては同じことだろう?』

 ただ、我侭を言わせてもらうなら、と彼は幾度か瞬きして。




『叶うなら、―――君にはそんな因果に巻き込まれてほしくない。雁字搦めになって動けなくなる君を見たくはない』

『誰にも、何にも、縛られずに居てほしいのだ』

『喩え、その対象が僕であったとしても』




 恨むとも傷つけず、憎むとも害さず、怒るとも罰さず。

 この道へ無理に引きずり込んでおきながら勝手なことを願ってすまない、でも、自由でいてもらいたいのは紛れもない本心だから。
 それでも逃れられない運命ならば、庇いきれない宿業ならば、せめてもと願うことはただひとつ。




『―――何に対する怒りなのか、責任なのか、見失わないでほしい』




 ひたり、と視線をこちらに注いだままで。

『誰に向けた怒りなのか、何処から来た悲しみなのか。何に怒り、苦しみ、その結果、何を成してどのような罪を背負ったのか。ひとつの感情に追い詰められて何ひとつ分からなくなってしまえば―――それこそ、償うことすら出来ない』

「………僕、は」

 赤い瞳から視線を外し、ゆっくりと。

 両の手を握り締める。小刻みに震える、その震えを、確かめるかのように。

 ―――彼の言葉は。

 相変わらず難解で理解しているとは到底言い難かったけれど、それでも、言葉以外に触れてくるやわらかなこころの襞が。

 静かな悲しみと優しさを伝えてくる。

 自分が、キースを嫌う理由。

 恨んでいたのは、彼ではなく。

 憎んでいたのは、他でもなく。

 怒っていたのは、誰でもなく。

「僕、が、―――」

 絶望して、いたのは。




 ―――僕、自身。だ。




 僅かにブルーが瞳を伏せた。

『………すまない。君の痛みを―――理解していなかった』

「そんな、」

 そんなことはない。

 彼が理解していないと言うのなら、他の誰が理解していると言えるのだろう。

『………あの後の、君は。地球を目指す中で少しずつ、あらたな思いとあらたな道を見い出したはずだけれど』

 思い出さないことを責めるつもりはない。
 思い出せと言うつもりもない。
 遥かな昔にゆっくりと時間をかけて積み重ねて漸く辿りついた境地にいますぐ到達するなんて無理に決まっている。

 だが、いつかは。

 誰のためでもない、自分自身のために。

 眼下に望んでいたはずの赤い星も遥か遠くに掠め見るばかりになっていた。

 ブルーが目を閉じる。

『………時間は偉大だ。記憶を薄れさせる代わりにつらいことも遠ざけてくれる。被害者も加害者も等しくね。君は、―――赦しだとは思えないと言っていたけれど、でもね。僕は、忘却もまた罪の根源とは考えられないのだよ』

 償いを求めたり報われない現実に嘆いたり相手を非難したり詰ったり。
 返らない事実に囚われたり復讐に精を出したり他者を傷つける方法を考えたり。
 そんな感情を永遠輪廻の如く繰り返すよりも、相手を愛しんだり慈しんだりすることに時間を費やした方がよほど素晴らしい人生になるのではないか。

 覚えているものは覚えていることを武器とし、覚えていないものは覚えていないことを糧とする。

 一応は加害者でもある僕が言うべきではないかもしれないけどね、なんてことを。

 呟く彼は暗い感情から疾うに解放されているように見える。それもまた時間の効能であるならば、少しは認めていいのかもしれない。

 明確な思考にすらなっていなかった感情を読み取ったのだろう。

 妙に幼い表情で、目を瞬いて、首を傾げる。

『何故、僕が憎まずに済むかって?』

 不思議でも何でもないだろう。

 もしも本当にそういった後ろ暗い感情から遠ざかっているなら、それはきっと。




『君に会えたからに決まっているのに』








「―――………っっ!」

 耳が痛くなるような静寂に目を見開いた。

 一瞬の暗転と、直後の光。

 遠く水平線に近づきつつある太陽に瞬きを繰り返す。知らず、押さえ込んでいた両耳を解放して辺りを見渡した。

 赤い星は足元にはなく、代わりに広がるのは何処までも青い海原。

 天に広がるのは星ではなく、太陽の光が満ち白い雲が駆ける大空。

 星に手は届かなくとも、常人には叶わない程の高みから大地を見下ろしている。

「………」

 地平線と水平線を同時に望む。

 何と、なく。

 声も出なくて。

 全身で風を受けながら何処までも広がる景色にただ、圧倒されていた。

 傍らに静かに舞い降りた存在が囁く。

「―――懐かしいね」

 あの時と同じだ。

 懐かしがっているような、面白がっているような。

 軽い口調に後押しされて隣を見つめた。
 服のところどころがほつれ、髪や頬は汚れているけれど、そこだけは翳りようのない真紅を揺らめかせて振り返る。

 手を差し伸べて彼が笑う。




「おかえり、ジョミー」




 ―――『地球』へ。



 

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※WEB拍手再録


 

何方か、頭の中に浮かんでいる映像をそのまま文章化する能力をください。ふたりの

決闘シーンはもっと迫力があってカッコイイはずなのヨ………! ギギギ。 ← ハンカチを噛み締める音

ブルーの発言に色々と矛盾がみられても華麗にスルーしてやってください。

あくまでも彼の主張は彼自身にだけ適応されるものであれ、他者の理想や行動に対しては非常に肝要なのです。

ただ、その中でもジョミー(とキース)にだけは色々と思うところがある、みたいな?

 

ちなみに初期稿だとこの辺の展開については「成層圏ランデヴー」と走り書きがあるのみでした。

いまどき「ランデヴー」って、自分………(遠い目)

 

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